ネット広告で苦情がきている業種は?JAROのデータを調べてみた【2025年度】
JARO(日本広告審査機構)に寄せられたインターネット広告の苦情を、業種別に集計してチャートにまとめました。件数の1位は電子コミック・動画配信です。ただ、順位表をながめるより大事な発見がありました。嫌われているのは「業界」というより、特定の広告主と、特定の広告表現でした。2025年度上期(2025年4〜9月)の件数ベースで見ていきます。なお、2026年7月公表の通期集計で、苦情は12,589件とJARO設立以来の最多になりました。上期に見えた構図は年度末まで続いています。通期の数字は文末の追記にまとめました。
- 業種別ランキングで、ネット広告の苦情がどこに集中しているかがひと目でわかる
- 生活者が嫌う「広告の4つの型」と、業種ごとの嫌われ方(不快感か、金銭・健康被害か)
- 件数の裏側にある「特定広告主への集中」という、順位表には出ない事実
業種別 ネット広告苦情ランキング 2025年度上期
JAROで媒体が「インターネット」に分類された苦情の上位です。バーの色は主な苦情のタイプ。マウスオーバーで前年同期比・構成比・内容を表示します。タイプのチップで絞り込めます。
1位はどこか、より大事な発見
ランキングの1位は電子コミック・動画配信で636件、前年同期の4.68倍でした。ただ、この順位表だけを見て「この業界は嫌われている」と結論するのは早いと思います。数字を分解すると、本当に見るべきものは別のところにありました。嫌われているのは業界というより、特定の広告主と、特定の広告表現です。
2025年度上期、広告主を特定できた6,709件の苦情のうち、上位5社だけで1,263件、18.8%を占めました。しかも苦情が最も多かった医薬部外品のEC事業者は、1社だけで479件。これは全苦情7,088件の約6.8%で、医薬部外品の苦情の約4分の3にあたります。だから「医薬部外品の広告全般が嫌われている」とは言えません。一部の大量出稿の広告主とクリエイティブが、業界全体の数字を押し上げているのが実態です。2024年度の通期でも、苦情の多い広告主の上位50社、全広告主のわずか1.7%が、特定できた苦情の27.3%を占めていました。一方で約7割の広告主は、年に1件だけです。
では、何が嫌われたのでしょうか。2025年度上期は、苦情の内容の57.8%が「表現」への苦情でした。効能や価格の誤認ではなく、見せ方そのものです。性的・猟奇的・不快な表現が急に増えました。性的な広告への苦情はネットだけで1,140件、ネット苦情の約27%にのぼります。そのうち594件は「子ども」「ゾーニング」に関わるものでした。つまり、成人向けの商材かどうかより、広告の内容と、それが表示される場所・時間・相手との不一致が問題になっています。
増え方にも注目したいところがあります。件数は96件と多くはないものの、証券・債券・投資その他が21件から4.57倍に伸びました。著名人の映像を生成AIで加工・生成した投資詐欺広告が主な要因です。これは不快な広告というより、金銭の被害に直結するタイプです。件数だけでなく、被害の重さで見るなら、最優先で対処すべき枠になりえます。
ここで一つ、急増の読み方に注意が必要です。苦情が2.4倍に増えたからといって、広告の品質が2.4倍悪くなったわけではありません。JARO自身が、性的なネット広告に関する報道、国会や省庁での議論、2025年6月から「ネット上の広告や不快な広告も受け付ける」と周知したこと、特定広告主の大量出稿、同じ広告の反復表示を要因に挙げています。実際、性的広告への苦情は4〜5月はむしろ減っていましたが、6月の報道後に急増し、8月ごろに落ち着きました。観測された急増は、広告品質 × 出稿量 × 報道 × 窓口の認知が重なった複合的な結果として読むのが妥当です。
実務への含意ははっきりしています。刺激的な広告は、短期的にはクリックを取れても、苦情や非表示、ブランド名のネガティブ検索、媒体への不信を増やします。JIAAの調査では、ネット広告を信頼できると答えた人は21.6%にとどまりました。不適切な広告が載るとサイト・アプリへの信頼が下がると答えた人が54.4%、そこに広告を出すブランドへの信頼が下がると答えた人が39.3%です。CTRやCVRだけで最適化すると、獲得効率の最適化が、そのままブランド毀損の最適化になりかねません。これからの運用は「成果」に加えて、苦情率・非表示率・クリエイティブの集中度といった「嫌悪コスト」まで見るべきだと思います。そしてこの領域は、制作のスピードとコストがそのまま効く場所でもあります。刺激に頼らず、手を替え品を替えて検証を回せるかどうかが、差になります。
下の「嫌われ方マトリクス」と一覧で、自社やクライアントの広告がどの型に寄っているかを、いちど確かめてみてください。
生活者が嫌う「広告の4つの型」
JAROの事例を横断すると、苦情を生む構造は大きく4つに整理できます。業種の違いを超えて、この4つのどれか(または組み合わせ)に当てはまります。
業種別ランキング一覧
6業種の件数・前年同期比・構成比・主な苦情の内容を一覧で。列見出しをクリックで並び替えできます。
通期確報:苦情は12,589件で、設立以来の最多に
2026年7月23日、JAROが2025年度の通期集計を公表しました。苦情は12,589件で、コロナ下の2020年度(11,560件)を上回る過去最多です。本ページのランキングと考察は上期データのままですが、構図は通期でも変わっていません。
通期データの読み解きと、広告主が取るべき対策のチェックリストは、ブログ記事「嫌われる広告の3つの型と対策」にまとめています。あわせてどうぞ。
方法と出典
- 件数は、JARO(日本広告審査機構)が公開した「2025年度上半期の苦情受付状況」(2025年4〜9月)の、媒体が「インターネット」に分類された苦情です。内容別・性的広告の内訳も同資料によります。前年同期との比較には2024年度・2023年度の事業報告を用いました。
- ネット苦情の総数は公表値(インターネットが全苦情7,088件の約59.6%)からの逆算で約4,224件、構成比はこれを分母にした概算です。医院・病院の前年同期件数は参照した公開資料では非公開のため、倍率は「2倍以上」と表記しています。業種はJAROの区分、苦情タイプ・マトリクスの配置は編集上の整理です。
- 受容度・信頼のデータはJIAA「2025年 インターネット広告に関するユーザー意識調査」(全国15〜69歳・有効3,840・ウェイトバック集計)、広告費の背景は電通「2025年 日本の広告費」(ネット広告費4兆459億円・総広告費の50.2%)によります。数値は2026年7月時点で確認できた公開資料に基づきます。
- 追記の通期(2025年度)の数字は、JARO「2025年度の苦情受付状況」(2026年7月23日公表)によります。苦情計12,589件・インターネット構成比60.9%・表現への苦情6,749件(前年度比184.1%)・特定1事業者への苦情737件など。
- 主な一次資料:JARO 苦情受付状況(上期) / JARO 苦情受付状況(通期) / JIAA ユーザー意識調査 / 電通 日本の広告費
このランキングで言えないこと:本レポートは、広告の表示回数や広告費で補正していない件数ベースです。JAROの認知度、報道、通報のしやすさ、カテゴリーごとの関与度に左右されるため、「広告表示1回あたりの嫌われやすさ」「業界全体の広告違反率」「広告費あたりの苦情率」は示せません。表示回数が多い業種ほど、絶対件数も増えやすい点にご注意ください。JIAAの調査では、詐欺広告を見た人のうち通報制度を知らない人が40.9%、知っていても通報していない人が39.8%で、実際に通報した人は約2割でした。JARO件数は問題広告全体ではなく、生活者が認識し、苦情として行動した一部のシグナルです。数値は Tasky が公開資料をもとに集計したもので、正確性・完全性を保証するものではありません。意思決定にあたっては各一次情報をご確認ください。
